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第730話
「熱いから触らない。
約束だぞ」
「やくおく」
「絶対だからな」
「やくおくよ」
「うし」
絶対だからな、と念押ししてからオーブンを開ければバターのにおいが一層濃くなった。
見たいのを我慢している綾登と同じ目線にしゃがむと、弟はにこにこの顔をして楽しみと笑った。
楽しみだなと返す三条の顔もにこにこだ。
次男が鉄板を置いてから三男を抱き上げると、サンタクロースやトナカイが綺麗な焼き色になっている。
これが本当の、こんがり小麦色だ。
「わぁ」
綾登からも感嘆の声が漏れる。
「すごい!」
数秒遅れてから、指を指してすごい!美味しそう!さんたさん!と喜びはじめた。
目をキラキラさせながら一所懸命に気持ちを伝えてくるのが可愛い。
「あちち?」
「あっついぞ」
「ふーふー、する?」
「食いてぇの?」
「うんっ」
それには同意だ。
バターの良いにおいがたまらない。
焼き色も、食べてくださいとばかりに誘っている。
長岡ではないが、これは誘っているとしか思えない。
「兄ちゃん、これ」
「おっけ」
型抜きした生地を丸めて、また型で抜き、を繰り返して最後に残ったものを丸めて出来たクッキーを手渡された箸で摘み上げる。
掴んでみて漸く分かったのだが、すごく熱そうだ。
「あちち?」
「すげぇ熱い。
全然冷めねぇ…」
「ぷーぷーきは」
「ハンディファン?
待ちきれねぇんだな」
「んっ」
お弁当を冷ましたりとちょっとあると便利なハンディファンは、寒くなっても台所では大活躍だ。
それで風をよそぎ冷ましていく。
触れるくらいになったら、いよいよだ。
「綾登、食えるよ」
「いたあきます!」
完全に冷めきっていないのでサックリとはいかないが、軽い歯触りに音がした。
「っ!!」
「ははっ、美味そうな顔」
「おいし!
とっても!」
とても嬉しそうな顔に次男もそっくりの顔をした。
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