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第735話

「いただきます」 「いただきます!」 甘いケーキに頬が緩む。 それに、隣には長岡。 しあわせだ。 「美味そうな顔。 ほんと、食わせがいがあるよな」 「美味しいです」 コンビニのケーキだって美味しい。 クリスマスともなれば、いつもの並んでいるようなショートケーキやチョコレートケーキだけではなく、サンタクロースを象ったものやホールまで販売されるのだからクリスマス様々だ。 しかも、翌日には値引きされる。 真ん丸いホールにフォークを突き刺して食べる贅沢だって出来るんだ。 沢山の神の存在を認める日本という文化に感謝しかない。 もぐもぐと頬を膨らませていると、隣から伸びてきた手が頬に触れた。 指の背ですりすりと撫でてくる。 「正宗さん…?」 「んー、しあわせだなって噛み締めてる」 長岡が、あの日のことを後悔しているのは知っている。 だけど、それがどれほどのものなのか教えてはくれない。 あの日があっての“今”なのに。 後悔なんてして欲しくない。 俺は不幸じゃないって知っているのに。 「正宗さん」 冷たい指先に自分から頬を押し付ける。 もっと触れて欲しい。 触れて、触れたところからしあわせな気持ちが伝わって欲しい。 こんなにしあわせなんだって知ったら、どんな顔をしてくれるだろう。 「生意気なこと考えてるだろ。 抱き締めさせろ」 「はいっ」 ケーキを端に置き、三条からも背中に手を回した。 後悔の痛みが、しあわせで治れば良いのに。 「今日、部屋に来るんだろ。 フライドチキン買っとくから食おうな」 「じゃあ、俺はコーラ買って行きますね」 「ジャンキーだな」 「本場に倣うとより美味しいじゃないですか」 「ははっ、確かに」

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