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第738話

「いくのぉ」 「行くの」 スニーカーの靴紐を結び直す背中に、綾登が抱き付いてくる。 「きょう、けーきだよ」 「それまでには帰ってくるよ」 「かああげだよ」 こうも寂しがられると後ろ髪引かれてしまう。 だけど、長岡とも会いたい。 “今日”を過ごしたい。 綾登と同じ“家族”だから。 だからといって、そう言えることではない。 だけど、気持ちは言葉にあらわさなければ伝わらない。 靴紐を結ぶ手を止め、振り返る。 「じゃあ、約束しようか。 ご飯までに帰ってくるよ。 一緒に、からあげとケーキ食べよう。 指切り」 「うん」 「お昼ご飯は帰ってこないから、優登のこと任せるな」 「んっ」 小さな指に指を絡めてゆっくりと振る。 目を覗き込めば、少し寂しそうなものの先程ほどではない。 どうやら納得してくれたみたいだ。 「おみゃげ」 「お土産? 良いよ。 なにが良い」 「わけっこのあいす」 「うん。 わけっこのアイス買ってくる。 アイスも一緒に食べよっか」 「うんっ!」 「じゃあ、行ってくるね」 「はあくね」

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