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第739話
深い文字の海に沈んでいると、コンッと窓が叩かれた。
申し訳なさそうな顔。
すぐにロックを解除し、中へと招き入れた。
「悪い…。
熱中してた」
「読書中に、すみません…。
夢中で読んでましたね」
「これ読んだか?
面白いから貸すよ」
「気になってた本です!
嬉しいですっ。
楽しみ」
子供みたいな顔で嬉しそうに笑う、その顔が好きだ。
これから独り占め出来ると思うと、どう時間を使おうか悩む。
飯をたらふく食わせるのも良い。
ホテルに直行も良い。
なにせ今日はクリスマスだ。
だけど、グッと我慢して自室へと向かう。
「じゃあ、部屋に行くか」
「はいっ。
お願いします」
「ん。
あ、なんか飲み物買っても良いか」
「はい」
今日の為に、チョコレート専門店でケーキを予約した。
昼間しか会えなくたって、外泊じゃなくたって、2人で過ごせることにかわりはない。
とてもしあわせなことだ。
「そうだ、クッキーは食われてたか?」
「はい。
人参も食べられてましたよ」
「そりゃ、偉大だな。
敵わねぇよ」
「俺には唯一のサンタがいますから」
バックミラーで後ろを伺うと、指に嵌めた指輪を嬉しそうに眺めていた。
あぁ、愛おしい。
誰よりも、なによりも。
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