742 / 984

第742話

「まってください…っ、明るい…」 「そりゃ、日中だからな」 「……恥ずかしいです」 「最高だな」 「……サディスト…」 「知らなかったか? マゾヒスト」 いつもより低い声に艶を感じる。 流石に玄関はまずい。 まずいと思いながらも、三条は簡単には玄関の壁際まで追い詰められた。 視線をさ迷わせても助けはない。 その時、恋人の部屋に似つかわしくない白い箱の存在を思い出した。 「け、ケーキ…、冷蔵庫にいれないと…。 それに、手洗いもまだ…」 ギラ付いた目が真っ直ぐに見詰める。 意地悪で“待て”を提示しているわけではない。 うがい手洗いはしておかなければ。 見詰め返す目に、長岡は折れた。 「ま、時間はあるしな」 「…はい」 「ほら、部屋あっためるから行こうぜ」 スッとケーキを持つと、もう片手で腕を取られた。 そして、末の弟のように部屋へと引く。 「ケーキは食後にするか? おやつか?」 「どちらでも…」 「んー、じゃあ、腹の具合で決めるか」

ともだちにシェアしよう!