792 / 984
第792話
帰宅する為の身支度を整えていると、長岡がマフラーを手にした。
「遥登」
数年前のクリスマスにプレゼントしてもらったマフラーが、長岡の手によって巻かれていく。
愛用しているそれは、大切にしていることもあり使用感こそあれどいまだふわふわだ。
キツすぎず、だけど冷たい風が入り込まないようにしっかりと。
あの日のように巻かれていく。
そんな長岡の目は、とても穏やかで慈愛に満ちている。
こんな近距離で見ることが出来て嬉しい。
「やっぱ似合ってる」
「嬉しいです」
「忘れもんねぇか?
あっても明日も会えば良いだけだけど、スマホとかだけは忘れんな」
「はい。
大丈夫です」
リュックを背負うと、ズッシリとした重みがある。
本を何冊も借りたからだ。
楽しみな重さを背にし、長岡を待つ。
コートを羽織るその姿も様になっている。
何気なく落とされる視線や、横顔。
すごく好きだ、
「あ。
正宗さん、俺が巻きたいです」
「ん?
じゃあ、頼もうかな」
「はいっ」
長岡のマフラーを首元へとかけると身を屈めてくれた。
「ありがとうございます」
「こっちこそ、ありがとな。
今度はマフラーほどいてくれよ。
ついでに、服も脱がせて良いからな」
「っ!!」
長岡が身を屈めた理由を知り、ドキドキと胸が早鐘を打つ。
ともだちにシェアしよう!

