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第797話
引き抜いた指を服で拭うと、とたとたっと母親の方へと走っていってしまう。
拭わなければ拭わないで声をかけるが、拭われるとそれはそれでなんだか微妙な気持ちになるのか、優登は複雑そうな顔をした。
「美味かった?」
「兄ちゃんまで…」
「本当に美味いのやろうか」
コートのポケットから取り出したキャラメルを手渡すと、やった!と口に放り込んだ。
綾登に見付かる前に、口に入れる。
いくら綾登が食べることが好きでも、甘い物は更に好きなのでご飯の前のおやつは食事の興味が減ってしまう。
そういうところはまだまだ子供だと思う。
大きくなると、食事は食事、おやつはおやつで楽しめる。
「うんまい」
「なぁに?」
「兄ちゃんの指」
「はぅの、ゆびぃ?」
すぐに戻ってきた綾登は首を傾げてみせるが、キャラメルはご飯の後だ。
「なにしてきたんだ?」
「てぇて、あらってきた」
「それはそれで複雑…」
「ばっちくないよ」
ピカピカにした手を見せるが、やっぱりそれはそれで複雑なようだ。
「自分から食われてきたくせに」
こちょこちょっと脇を擽ると綾登の楽しそうな声がリビングいっぱいに響いた。
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