802 / 984

第802話

ベッドに寝転び、長岡から借りた本を読む。 文庫本のにおいに、微かに長岡のにおいが混じっている。 簡単に深く沈めるのは、お互いの本の好みが似ているからだ。 読みやすいテンポ感が似ているのだろう。 「すみません…」 くしゅっとくしゃみをすると、耳に刺したイヤホンから声が聴こえてきた。 『大丈夫か?』 「突然すみません…。 全然大丈夫です。 なんか鼻がムズムズして」 長岡はイヤホンを使わず、こちらの生活を部屋へと垂れ流している。 一人暮らしとは気にするものが少ないらしい。 だから、くしゃみの大きさは気にしなくて大丈夫らしいのだが、少しばかり大きいのが出てしまった。 『風邪ひかせちまったか?』 「全然っ、元気ですっ。 会えて嬉しかったです。 むしろ、元気もらえました」 『なら、良いけど。 気を付けるは、気を付けといてくれ』 「はい」 すると、今度はイヤホンからくしゃみの音が聴こえたきた。 『わり、五月蝿かったな』 「平気です。 それより大丈夫ですか?」 『全然余裕。 埃かなんかだろ』 「体調悪い時は言ってくださいね。 必要なもの持っていきます」 『看病してくれんじゃねぇの?』 「正宗さんが良いのなら…」 『場合によっては頼むよ。 “色々”な』 艶っぽい顔に、かぁぁっと体温が上がるのが分かった。

ともだちにシェアしよう!