804 / 984

第804話

蓬と柏のご飯と猫砂をドサドサッと玄関に置くと、珍しく柏が顔を出した。 「お、柏」 それに続き、蓬が足元へと小走りでやって来る。 刺激しないようにそぅっと玄関を閉めてから、小さな頭を撫でた。 「蓬、飯買ってきたぞ。 キュールもな」 冷え込む玄関なんて気にすることもなく、頭を撫で、顎を擽り、甘やかす。 自分を家族に選んでくれた子だ。 離れていても愛猫にかわりはない。 にゃぁ…、と短く柏が鳴くと、奥から母親がやって来た。 「もー、またそんな寒いところで撫でて。 風邪ひくわよ」 「連絡した成長については」 「あら、褒められたいの。 子供ね。 良い子よ」 「だってよ、蓬」 長岡に撫でられるのが嬉しい蓬は、ゴロゴロと喉を鳴らしながらフミフミしている。 猫のこのマイペースさが好きだ。 媚を売らず、自分は自分で生きている。 嫌なことは引き摺らない。 楽しいことだけ覚えている。 そんな風に生きられたらどんなに良いか。 「夜ご飯食べていく? 正宗いるならご馳走にするよ」 「んー、俺がいるからって気にすんなよ。 正月くらい母さんも楽しろって」 「大人になっちゃって」 母親は柏を抱え、冷える手をあたためる。 「ご飯の話は後で良いから、そろそろ入りない。 本当に風邪ひくわよ」

ともだちにシェアしよう!