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第812話
「俺の…風呂を見て、楽しいですか…?」
『すっげぇ楽しい』
「そう…なんですね…」
いや、本当に楽しそうな顔をしているんだけど。
「それなら良いですけど…」
『なんだよ。
つまんねぇと思ってんのか?』
「だって、男が風呂に入ってるだけですよ?」
『遥登だろ』
こういうところだ。
サラリと、こういうことを言う。
この顔で。
こんなのたまらないに決まっている。
顔が良いのは勿論だが、声も良い。
他人に興味が薄いのに、自分にだけは興味も持ってくれているのも良い。
まるで、特別だと言わんばかりの態度が良い。
グ…ッとくる。
「語彙力なくなります…」
『ははっ、なんでだよ』
ちゃぷちゃぷと湯を楽しみながら、他愛もない話をする。
ただ、それだけの時間がとても愛おしい。
『なんかアイス食いたくなってきたな』
「珍しいですね」
『風呂に浸かってる遥登見てたら、カリカリくん食いてぇな』
「俺見てって…。
買いに行きますか?」
『冷凍庫にあるんだよ。
けど、遥登と食おうと思ってたやつだしなぁ』
渋る長岡は、水でも飲むか、と一人言ちた。
「俺も、風呂から出たらアイス食べます。
一緒に食べませんか?」
『ほんと、俺に甘めぇよな』
「正宗さんが、それを言いますか…」
小さく笑いながら、なら、早めに出ようと心に決めた。
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