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第814話
「もう3ヶ月で、社会人か」
アイスを食べながら行儀わるく寝転ぶと、三条が見えなくなる。
けれど、部屋中に残る三条の空気がある。
それだけで寂しさはない。
『やっとです』
「もっとゆっくりおっきくなれよ」
『おっきくって…』
「もう、学生の遥登には会えねぇんだぞ」
学生の三条しか知らない。
出会ったのは高校一年生の春。
そこから長い時間を一緒に過ごしてきたが、ずっと学生のまま。
高校を卒業しても、バイトをしていても、兄の顔をしていても、それでも学生だ。
それが、この春からかわる。
はじめてみる、社会人の恋人。
『正宗さんって、たまに大人みたいなことを言いますよね』
「大人だしな」
『俺の前では大人ぶらないじゃないですか』
「そりゃ、好きな子の前では素直でいてぇし」
『好きな子?』
「世界で1番好きな子」
『…そ、いうところです』
「素直だろ」
起き上がり、またアイスを齧る。
三条の好きなチープな味のする、だけど子供の頃からかわらない味のアイス。
「だから、ゆっくりおっきくなれ」
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