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第823話

「うまそ」 兄のやわらかな声に、優登は嬉しそうな顔をした。 バレンタインデーといえば、多くのお菓子を作っても許される日だ。 クッキー、パウンドケーキ、生チョコに、ケーキ。 クッキー缶として詰めてしまえば良いのだから。 「味見」 「やった! 徳役!」 ぱくっと生チョコを口にした三条はニコニコの笑みを深めた。 その顔だけで、味が想像出来る。 リキュールで風味付けしてのが気に入ったのか、もう1つと言ってきた。 「好き?」 「うん。 美味い。 洋酒が良いな」 「大人だな」 「もうすぐ社会人だもんな」 「まだ内定決まってないのに?」 「……まぁ、そうなんだけど」 面接で兄に似合いそうな校風のところへ行けるならなによりだ。 おおらかな兄。 そんな兄がどこに配置されるのかは気になるところでもある。 けど、それは単なる好奇心ではなく、兄の身体や心に対しての心配もある。 教職員はブラックだ。 教員採用試験に合格してから、そんな言葉が耳に届くようになった。 意識しはじめて見てるようになった世界。 それに不安もある。 だって、自分にとっての世界でたった1人の兄だから。

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