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第827話
シンプルな缶を渡され、綾登は唇を尖らせた。
「なんだよ。
開けてみろよ」
ぶ、と口を尖らせたまま隣に座る兄に缶を差し出した。
「はう、あーけーて」
「ん。
任せろ」
パカッと蓋を外し、中を見せないように末っ子に差し出す。
開ける、という行為。
たったそれだけのことではあるが、それは大きなことだ。
この場合は特に。
小さな手が蓋を掴み、外す。
すると、甘いにおいと共に沢山の焼き菓子が綾登の目を輝かせた。
「わぁっ!!」
「いらねぇ?」
「いるっ!!
あーとの!!」
クマの型抜きクッキーにこれまたクマの形をした絞りだしクッキー。
ディアマンクッキーや、フロランタン等がぎっしりと詰まっている。
「わぁ、はぅ、みて!
すごいねぇ」
「嬉しい?」
「うんっ!
ゆーとも、すき」
「現金なやつ」
サクサクと音をさせながらクッキーを齧る三男に、次男は少し口端をあげた。
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