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第828話

家から抜け出すと、外灯の下に細長い陰が伸びていた。 「っ!」 その人も此方に気が付いたようで、すぐにヒラヒラと手を振った。 その手の動かし方も、顔の動きも、すべてが長岡だと伝えてくる。 タッタッタッと小走りで後を追う。 自宅前の道路からは見えない曲がり角を曲がった所に、長岡は待っていてくれた。 やわらかな表情に、胸がきゅっと喜ぶ。 「遥登。 まだ少し早ぇけど、バレンタインのチョコレート」 「俺もです。 受け取ってくださいますか」 「当たり前だろ。 ありがとうございます」 「俺も、ありがとうございます!」 立ったままの交換に色気もなにもない。 けど、大切なのは気持ちだ。 そこに込められた願い。 それがちゃんと恋人に届くことが大切。 「神社行って食おうぜ」 「はいっ」 「あ、あっかいの飲みてぇよな。 自販機寄ろうぜ」 「すっかり覚えましたね」 「当然。 なんせ、遥登が教えてくれたんだからな」 自動販売機のある道へと歩く長岡の隣を歩く。 今日これから深夜のデートだ。

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