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第831話
「美味しいです。
ありがとうございます」
普通にしているつもりなのだろう。
けれど、僅かな変化でも分かるに決まっている。
どこか、ソワ…っとしている三条の顔を覗き込むり
「口に指がぶつかったの、意識しちまった?」
「…っ」
「ははっ、図星か」
ぶつかったであろう口の端を指先でなぞると、暗がりでも分かるほど赤くなった。
口からチョコレートが溢れないようにきゅっと口を閉じているのも相まって、本当にすべてがされるがままだ。
「もう1個食うか?」
「じ、ぶんの分を…食べるので…」
「あの食い方で?」
「…普通っ、に」
「えー、バレンタインのチョコはあの食い方が普通だろ」
「とんだスケベじゃないですか…」
「スケベなの好きだろ」
穏やかな空気だ。
2月の風はまだ冷たいが、特には気にならない。
首元をあたためるマフラーも、自分のプレゼントだ。
これが見られるから、寒いのも悪くないと思える。
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