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第844話
「手、冷えてます。
お湯で手を洗ってあったまってください」
「大人みてぇなこと言うようになっちまったな」
「成人してます…」
確かに年齢で言えば、成人をしている。
だが、そういう意味ではない。
「耳真っ赤だけどな」
「それは…」
頭をくしゃくしゃと撫でながら、美味そうなにおいのする部屋へと続くドアを開ける。
より一層の醤油の炊けるにおいと、米の炊ける甘いにおい。
振り返れば、愛しい子。
「どうかしましたか?」
「いや。
帰って来たんだなって、味わってる」
「?」
「お、本棚綺麗だな。
大変だったろ。
ありがとな」
においから視覚へと情報が切り替わり、朝との違いに目を滑らせた。
今にも雪崩れそうだった積ん読も綺麗に揃えられている。
本棚も綺麗に整理されている。
しかも、虫干しまでしてくれる手厚さ。
恋人だからとかではなく、バイト代は手厚くしないといけないレベルだ。
「いえ。
俺もさっきまで読ませてもらってましたし」
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