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第855話

「…はぁ……はぁ………、はぁっ…」 腕にしがみつきながらも脱力する身体を抱き留める。 遠慮を優先したのか、呼吸も粗い。 まずはティッシュで軽く手を拭って、水分も摂らせないといけない。 だけど、少しだけ。 抱き締めて、その上気した清潔なにおいを肺いっぱいに吸い込む。 「まさ、むねさん、は…」 「んー…、俺は良い。 遥登吸ってる」 「でも…」 「とまんなくなるから、今日じゃなくて良い」 ここから準備だのを考えると帰宅時間も気になるし、今なら堪えられる。 我慢という訳ではない。 勿論、これだけいやらしい姿の恋人を見たら反応はする。 するに決まっている。 いるが、セックスだけがすべてではない。 モゾモゾと動いたかと思うと抱き締められる。 あたたかな体温。 微かな汗のにおい。 恋人だと分かるそれらに目を閉じた。 「…俺は、大丈夫ですよ」 「次、めちゃくちゃにすっからな」 「……期待、してます」 「えっろいこと言って煽んなよ」 「煽ってなんて…」 嘘、と口にしながらも、下半身だけは正直だった。

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