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第880話

真っ暗い田んぼの中を走る電車に揺られ、帰路へと就く。 まだ暗くなるのが早い。 そして、日が沈むと肌寒さが増す。 もうすぐ春だというのに、まるで自分がそれを拒んでいるかのようにすら感じられる。 就職が嫌だというより、もう少し子供でいることを許されたい。 「三条、見てくれよ。 これ面白い」 「うん?」 差し出されるスマホを覗き込む。 吉田と分かれ、乗り換え先まで田上と2人きり。 こうして一緒に電車に乗ることも、少なくなる。 いや、お互い引っ越しをしたらなくなるかもしれない。 そう思うとなんとなく名残惜しい。 「どした?」 「んー、こうやって田上と帰るのも最後かなぁって」 「まぁ、みんな実家出るしな。 三条だけ別地とかも有り得るもんな」 「あんま、離れたくねぇな」 「大丈夫だろ。 三条、悪運強いし」 悪運と言ってしまうのもどうかと思うが、運は悪くない。 「ここぞって時に不運になるかもよ?」 「そうなったら、俺達が会いに行くよ」 当たり前だろ、と続ける田上と吉田友人になれたこともそうだ。 「俺も会いに行く」 「知ってるよ。 三条だもんなっ」

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