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第907話
あたたかな湯から出ると、少しだけ眠気が誘うのか三条の目がゆっくりと瞬きをする。
寝させてやりたいが、その前に濡れた襟足を乾かしてやりたい。
卒業式前に風邪なんてご両親にも顔向け出来ない。
「遥登、水飲め。
ドライヤー持ってくるから」
「はい」
マグに水を汲みなおし、手渡すと口を付けたのを確認する。
こういう時、声をかけないと三条は自分が戻ってくるまで水に口をつけない。
この穏やかそうな見た目で体育会系なんだから驚く。
「飲んでるか?」
「はい」
「んじゃ、そのままで良いから髪乾かすぞ」
背後を陣取りドライヤーのスイッチを押した。
襟足に手櫛を通し、サラサラと手から溢す。
項が熱くならないよう、自分の手で直接風が当たらないようにしつつ乾かす。
丸い頭を眺めていると、高校生の頃となにも変わっていないよう思える。
だけど、恋人はもう大学生だ。
それも、もう1ヶ月ほどで社会人。
時が過ぎるのは早い。
それでも、その時間を自分も見ることが出来たのはとてもしあわせなことだ。
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