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第913話
目が覚めるとすっかり外は暗くなっていた。
「すみません…」
「一緒に寝れて嬉しかったのは俺だけか?」
「俺もっ、嬉しいですけど…。
寝過ぎました…」
気にすることはないとばかりの手で後頭部を撫でられる。
ただ、すごく良く眠れた。
そりゃもうぐっすり。
身体も軽いし、頭もスッキリ。
やっぱり恋人の隣は落ち着く。
大好きなんだと実感するほど。
そんな恋人は、カチャカチャとたまごを溶き片栗粉を入れ、更に混ぜている。
晩ご飯──帰宅前なので晩というには若干早いが──のうどんだ。
それも、ふわふわのかきたまの。
「俺もよく寝た。
今日は夜更かし出来るな」
「はい」
ボコボコと沸く出汁の中に卵液を流し込むとすぐにふわっと浮き上がった。
このふわふわのたまごが美味しいんだ。
つい頬が緩んでしまう。
「性欲、睡眠欲ときて、次は食欲も俺が満たしてやれんのか」
悪戯っぽい顔に、頬がアツくなる。
言われてみればそうだ。
セックスをして、昼寝をして、今度は晩ご飯。
人間の三大欲求を満たしてもらっている。
「……」
「照れんなって。
もっと照れさせたくなんだろ」
コンロの火が消され、ドキッとする。
調理スペースでのセックスだって何回もした。
ここで、何度も抱かれた。
また……抱かれる…?
淡い期待に胸をドキドキさせていると、長岡の手が丼を掴んだ。
「今日はもうお預け」
「…っ!」
まるで心の内を読まれたかのような発言にびっくりした。
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