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第919話

握られていた手、その指を捕まれると、長岡は指輪に触れた。 普段はネックレスチェーンに通しているそれ。 水や風呂の時はまだ外れてしまったら…と考えて外すが、恋人と会う時は指に嵌めていた。 見せびらかす為に。 「ここにもキスしちまおうかなぁ」 「…間接…しちゃいますよ」 「んー、だぁめ」 甘ったるい声に、つい反応してしまう。 こんな声、学校では決して聞けない。 自分だけの特別だ。 何度も指輪を確認するように、薬指に触れてくるのも嬉しい。 「寝る時は外してんのか?」 「寝る時も…してます…」 「ふぅん?」 そんなに嬉しそうな顔をされると、たまらない。 自分の顔の良さを本当に自覚してほしい。 自覚しても、その顔は向けてほしいけど。 大好きな人の嬉しそうな顔なんて、何度見ても良い。 あればあるほど良いんだから。 「アイス食わねぇと溶けんぞ」 「あ、そうでした。 正宗さんも…」 食べなきゃ溶ける。 そう言いたいのに、食べる為には手を離されてしまうと自覚した途端、言葉が止まってしまった。 もう少しだけ甘えていたい。 そんな気分だから。 「俺は溶けたの飲むから良いんだよ」 まるで離さないとばかりに手をぎゅっと握られる。 「そんなに甘やかされたら、我が儘になっちゃいますよ…」 「なれよ。 もっと我が儘言ってくれ。 言われると嬉しいんだから」 「…じゃあ、もう少しだけこうしてたいです」 「ん。 勿論」

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