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第922話
「じゃ、気を付けて帰れよ」
「はい。
送ってくださって、ありがとうございます」
「俺が少しでも長く遥登と居たかっただけ。
今日は楽しかったよ」
かぁっと頬がアツくなるのは、その楽しかったことの中にセックスが含まれていると解るから。
どこにもそんな発言はない。
意図し得ないかもしれない。
けれど、長岡の顔を見たら解る。
楽しそうになにかを含んだ顔をしている。
だけど、とても愛おしそうな顔。
長岡の服を指先で掴むと、少しだけ引いた。
「……俺も、です」
「楽しかったか。
そりゃ、光栄だ」
どんな顔をしたら良いか分からない。
それでも、長岡は満足そうに目を細める。
こういう瞬間だって、しあわせだ。
愛おしいと思う。
そんな瞬間ばかりを長岡は沢山くれた。
学生生活は残り1ヶ月を切ったが、その間にも沢山の思い出をつくりたい。
例えば、卒業旅行に行けないとしても。
大好きな人と楽しい記憶をもっと、もっとつくりたい。
「部屋に帰ったら連絡ください」
「分かった。
遥登も風呂あったまれよ」
「はい。
正宗さんも」
「じゃ、帰ったらな」
指の背で頬を撫でられ、名残惜しい背中を見送られた。
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