924 / 984

第924話

「さんじょー」 「田上っ!」 広い会場で、どこだ?とスマホを見ていると近くから手を上げる人を見付けた。 茶気ていた髪は落ち着いた色味に染められ、それがもうすぐ新生活なのを強く印象付けている。 けれど、どちらの色も似合っている。 今日は、大学の卒業式だ。 去年はこういして会場では出来なかったが、今年は様子をみながらするということで、久しぶりに多くの学生が式場となる建物に集まっている。 「三条、背ぇ高いからすぐに見付かったわ」 「ごめん、迷って…」 「いや、見付かったんだんだから気にしなくて良いだろ。 それより、決まったんだろ? どこ?」 「秘密」 「公務員は厳しいなぁ…。 でも、おめでと」 ニッと笑う顔は高校の時と…出会った時と全くかわっていない。 だけど、すごく大人になったと思うのはなぜだろう。 「そっか。 三条の名前、新聞に載るのか。 額に入れて飾らねぇと」 「なんでだよ…」 「そりゃ、大切な友達の第1歩だろ。 大切じゃねぇか」 田上のそういうところが好きだ。 「吉田もするってよ」 「吉田も? なんで俺省いて話してるんだよ…」 「じゃあ、三条も飾ろうぜ。 3人でお揃い」 「なんか…不思議なお揃いだな…」 でも、自分と同じように喜んでくれる友人に出会えて良かった。 その喜びを噛み締めながら、卒業式までの時間を潰す。

ともだちにシェアしよう!