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第931話

「そうですよね。 じゃあ、改めてよろしくお願いします。 三条先生」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 頭を下げ、最後の1人に向き合った。 端正な顔立ち。 スッと伸びた背筋。 見慣れた髪色の髪の毛を教師用に整え、水色に青いラインの入ったネクタイを締めたその人は口角を上げた。 「長岡です。 まさか一緒に働けるなんて思ってもいませんでした。 けど、すごく嬉しいです。 よろしくお願いします」 「よろしくお願いします」 本当に、本当に、夢みたいだ。 「生徒が夢を叶えたなんて、嬉しいですよね。 それを、この目で見れるのも」 「そうですね。 学校は、通過点ですから」 胸はドキドキでいっぱいだ。 だけど、ふわふわもする。 なんて表現したら良いのか分からない。 緊張もしている。 きちんと自分の言葉で気持ちを伝えられてもいるかも不安だ。 だけど、憧れていた背中の近さに嬉しさも込み上げてくる。 教師の仮面の奥に、長岡の本音が見えるようだ。 「三条先生、腰を下ろしてください。 立ちっぱなしも疲れますよね。 コーヒーか、お茶、どっちが好きですか」 「あ、僕がします」 だけど、それを制される。 「三条、この準備室は出来る人が出来ることをするんです。 年下だからとか、新しいとかとかは、気にしなくて大丈夫。 無理をし過ぎなくて良いんだ」 「はい。 …じゃあ、皆さんと同じのが良いです」 「長岡さんが先生してます。 なんか、良いですね」 「分かります。 なんか良いですよね。 新学期が楽しみですね」 五十嵐と古津の後ろで、長岡は然り気無く自分の隣に椅子を用意した。

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