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第934話
自宅へ帰ると、夕食の良いにおいがする。
「ただいま」
「おかえりっ。
学校どうだった?」
「普通」
「普通って?」
今日の夕食当番の優登は、手を洗う横で興味津々。
県立高校に特別もなにもないだろう。
専門科であれば、特色はあるが普通科の高校だ。
普通以外のことでいえば、恋人がいたこと。
それも同僚として。
だが、そんなことは言えない。
この思春期ど真ん中には特に。
「お、筑前煮。
美味そう」
「食う?」
「食う」
着替えもせず、立ったまま鍋の中の里芋を口に放り込むと思いの外熱くてはふはふと頬を動かした。
そんなことをしても覚める訳もなく、結局手で口を隠して、熱いのを堪える。
「さっきまで火つけてたから」
「先に言ってくれよ…」
上顎がべろっとしているが、まぁ、口の中なのですぐに治るだろう。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、マグに注いだ。
それを飲みながら、また筑前煮を味見する。
「なんか食ったら腹減ったな」
麦茶で腹を満たすかとゴクゴク飲むが、所詮液体。
余計に空腹を感じる気がする。
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