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第938話

『で、なんで言わなかったんだよ』 「公務員…だからです…」 画面の向こうの恋人は、ふぅん?と短く言葉を溢した。 けど、半分は本当だ。 公務員として、厳守すべき秘密は恋人にも秘密。 もう半分は、どんな顔をするかなという好奇心。 それと、ほんの少しだけ、こんな都合の良い展開嘘だと思ってもいた。 『学校にいるの見付けた時、どんな気持ちだったと思ってるんだ』 「どんな気持ちですか?」 『めちゃくちゃ嬉しかった』 その言葉を聞けて、俺も嬉しい。 憧れの恩師と同じ学校で働ける。 それがどんなに嬉しいか。 『しかも、準備室来るんだろ。 席隣なんて、遥登が学生の時は有り得なかったろ』 教師と教え子という立場では有り得ないことだ。 だが、同じ教師としてなら、隣の席になることだって出来る。 感染症禍になって、ずっと踏ん張っていた。 ぬかるんでも、石を投げられても。 あくまでも自分の為にしてきたことだ。 夢を叶えたいから。 憧れた背中があるから。 必死に立っていた。 それが、こんなかたちでご褒美をもらえるとは思わなかった。 『やっべ、嬉し過ぎて眠れねぇかも』 「そんなにですか?」 『当たり前だろ。 恋人の夢が叶っただけでも嬉しいのに、同じ職場だぞ。 教え子の成長も近くで見れる。 こんな嬉しいことはねぇよ』 特別嬉しそうな顔で言われ、ニヤニヤしてしまう。 そして、配属先を決めてくれた人にとびきりに良いことがありますようにと心の中で願った。

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