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第952話

「綾登、良いか。 手伝うんだぞ」 「なんでぇ」 「兄ちゃんの胃袋を鷲掴む為だ」 兄は新学期がはじまると一人暮らしをするらしい。 ずっと一緒にいたのに。 寂しいに決まってる。 兄は、遊びにおいでよ、と言っていたがそれじゃ足りない。 少しでも多く帰ってきてもらう為に美味しいお菓子を作って胃袋を掴むんだ。 あの味が恋しいと思ってもらえるように、綾登にも手伝ってもらってプライスレスにして。 我ながらずるいとは思う。 が、狡くてなにがいけない。 賢い知恵だと言ってほしい。 「このレモンをゴロゴロってして」 「はぁい」 小さな手がレモンを揉む。 小さくて弱い手。 少し力が足りないかもしれない… 「あーとも、たべれる?」 「兄ちゃん次第。 ん? 綾登次第? ちょーだいって言ったらくれる」 ボールに入ったバターを練りながら小さな頭を見下ろす。 「もっとゴロゴロってして。 もう1つあるから、それもしてほしい」 「ちゃぁちゃーなぁ」 「しょうがないなぁ、な」

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