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第957話
「半分も食えるのかぁ」
「たべれるよぉ。
これ、おいしいの」
綾登の口に手を当てると、綾登はハッと息を飲んだ。
「綾登は正直ね」
「優登の顔も正直だよ」
両親の声に優登は顔をしかめてみせた。
そんなことをしても、今更だ。
大方、2人で味見でもしたのだろう。
小さな型で焼いたのか、それともアイシングか。
残ったレモンでレモネードってことも有り得る。
「舐めた?
飲んだ?」
「いわないよ」
「教えてくれないのか?」
「だってぇ…」
「兄ちゃん、切り分けるから食おう。
ほら、手洗いうがい。
あと、なに飲むの」
こういう時の協力は固いんだ。
諦めてハンドソープをプシュっと手に取ると、隣に並んだ優登はケーキを切り分けはじめた。
足元には綾登。
サクサクと切っては皿にのせている。
その内の2つを綾登に手渡している。
「父さんと母さんに渡して」
「まかせて!」
「ほい、兄ちゃんの分」
「俺の厚いくねぇか?」
「そりゃ、兄ちゃんのだし。
残りのも食って良いから」
「良いのか?
綾登が半分頂戴って言ってたろ」
父と母の元へと運び、頭を撫でられている綾登には聞こえないようにこっそりと話す。
食べ物の恨みは恐ろしい。
こんな美味しいレモンケーキなら尚更だ。
「バレなきゃ大丈夫。
綾登のも厚目に切ったし」
「ゆーと、もってったよ」
「おう。
ありがとな。
綾登の分な」
「やったー!
たべよっ」
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