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6-3 猫が獲物を甚振るように。

 ――タカだ。  何で、タカの写真をコイツが持ってるんだ?  デスクトップ画面を覗き込んだまま凍り付くオレの様子に、パソコンの持ち主である四ノ宮は、口元に笑みを湛えて言う。 「ああ、これ。トキさんのSNSの投稿から見つけたんですけど、トキさんが凄く良い笑顔だったので、つい壁紙にしてしまったんです。……駄目でしたか?」 「……いや」 「四ノ宮さんは、花鏡くんの熱狂的なファンなんだねぇ」  と、まったり口を挟んだのは、店長こと渋谷さん。 「はい、僕トキさんが出てる雑誌、毎回スクラップしてコレクションしてるんですよ。トキさんは僕の憧れなんです」  ――嘘だ。  いや、もしかしたらモデルとしてのオレのファンってのは本当なのかもしれないけど、デスクトップの画像に関しては絶対そんな意図で使ってるんじゃない。  これは、警告だ。オレが前回、うっかりタカの名前を呼んだから……オレにとって、タカが大事な人だってことを、四ノ宮が知ってしまったから。  ――『いいですか、トキさん。余計なことを言ったら一連の画像をばら撒くか、〝タカ〟さんに身代わりになって頂きますからね』  あの時の四ノ宮の言葉が、脳裏に蘇る。再度耳朶に直接囁かれたような妙な感覚に陥り、思わず耳を押えて四ノ宮を見た。四ノ宮は得たりとばかりに薄く微笑んでいた。  その時、丁度来客を知らせるドアベルが鳴ったので、オレは四ノ宮から目を逸らして通常業務に戻った。  ――間違いない。アイツ、タカのこともう特定したんだ。  オレは、〝タカ〟としか呼んでないのに……。オレが不用意にタカの写真までSNSに上げてたせいだ。……いや、例えSNSに写真がなくても、すぐに分かるか。オレとタカはいつも一緒に居たから。ちょっと誰かに聞けば、オレの幼馴染兼親友の名前が風見 鷹斗で、あだ名が〝タカ〟だってことなんて、誰でも一発で突き止められる。  くそっ、オレ、何でタカの名前なんか出しちゃったんだ!  タカの写真をオレに見せといて、何かを強いるでもなく、その後四ノ宮はケーキとコーヒーを味わいながら普通に論文作成作業に没頭していった。  ――静か過ぎる。逆に怖い。え、マジでコイツ、何が目的でここに来たんだ? タカを特定したぞってオレに伝えて、オレが戦々恐々とする様を拝みに来ただけか?  オレがそう考え始めた頃、不意に四ノ宮が席を立った。思わず身構えたけど、「御手洗お借りしますね」って。……ああ、なんだ。  ホッとしたのも束の間、その数秒後、トイレに向かったばかりの四ノ宮に呼ばれた。 「すみません、トキさん。御手洗の水が詰まっているようなんですけど……」 「え?」 「おやおや。花鏡くん、頼めるかい?」  名指しで呼ばれたからには、オレが行くしかない。どっと、一気に不安が冷や汗となり、噴き出した。遂に、何か仕掛けてくるのか……? 「花鏡、何か顔色悪くねーか?」 「へ? ああ……大丈夫だ」  須崎に心配された。駄目だ、須崎にも気取られないようにしねーと。エプロンを清掃用のものに替えると、炊事手袋を填めて慎重にトイレに向かう。男女別に分かれた男子トイレの方。省スペースの問題で小便器は置かれておらず、個室が二つだけ。  慣例に従い入口に『清掃中』の札を出して、立ち入りを禁ずる。……にも関わらず、四ノ宮はやっぱり一緒に入ってきた。 「……何の用だよ」  小声で切り出す。どうせ、水が詰まってるってのも嘘なんだろ。四ノ宮は答えず、感慨深げに零した。 「あのお友達さん、どうやらトキさんのことが好きみたいですね」 「は!?」  タカのことか!? 何で知ってる!? 「流石トキさん、罪作りですね」  ふふっ、と愉しげに笑う四ノ宮。――不気味だ。マジで何考えてるんだ? 「そうそう、僕トキさんにプレゼントがあって来たんですよ」 「プレゼント?」  嫌な予感しかしないんだが。果たして四ノ宮は、ミニバッグの中から取り出した何かを、掌の上に乗せてオレに見せてきた。  細長い卵型の、つるんとした銀色の。下部にはピンク色のハート型のジュエリーみたいなのが付いている。……何だこの、女子が好きそうなファンシーなのは。 「魔法少女のソウルジェムか?」 「ぷっ」  鼻で笑われた。何だよ!! 「そうですね。これでトキさんを可愛らしく変身させてあげますから、とりあえずそこの壁に手をついて腰を突き出してください」 「は? 何で?」 「命令です。従わなかった場合は……分かっていますね?」  くっ……九重の同類項め!  オレは渋々言われた通りの体勢を取った。それで変身って、どうするつもりなんだ? 怖々振り向いて見ると、四ノ宮はオレのズボンのベルトを外し始めた。 「お、おい!?」 「はい、静かにしてくださいね。人が来ちゃうかもしれませんよ?」 「っ……」  抗議も封じられ、オレは唇を噛んで四ノ宮のすることをただ見守った。四ノ宮はベルトを外すと、オレのズボンと下着を一気にずり下ろし、下半身を露出させた。壁に手をついて、情けなく尻を突き出したポーズで。誰かに見られたら軽く死ねる。 「下だけ裸エプロン、なんてね」 「ふざけてないで、早く終わらせろよ。マジで誰か来たらどうすんだよ」 「何するかも分かってないくせに」  子声で訴えるオレに愉快げな笑みを漏らしながら、四ノ宮はミニバッグからまた何かを取り出した。化粧品のボトル……みたいなそれのキャップを取り、中身をさっきのソウルジェム(仮)に振り掛ける。なんか、半透明のドロっとした液体だ。それを景気良くたっぷりと。 「トキさん、これはアナ〇プラグと言いまして」 「あ、穴……」 「そう……穴を拡張する為の道具です」 「はぁ!?」 「はい、静かに。では、挿れますよ。力を抜いてくださいねー」 「いや、待っ」  無理だと止める間も無かった。四ノ宮は準備を終えたそれを、いきなりオレの下の口に突っ込んできた。

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