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6-5 路地裏のコンクリートを濡らす、泪と ◆
正確には、更衣の間は与えられた。だけど、中のプラグは勝手に抜くなと言われていたので、そのまま。ただ制服から私服に着替えるだけ着替えた。
……控え室に他の従業員が居ない時で、本当に良かった。女の子だと更衣用カーテンを使えるけど、それの数が少ないせいか男だと控え室でそのまま衆目の中着替える慣習が何となく出来上がってしまっている。プラグなんて入ってたら、絶対バレる。たぶん。
店の裏口から出ると、そこには既に四ノ宮が待っていた。
「遅いですよ、トキさん。のろのろ着替えたでしょう」
「うっせ……速く動けねんだよ」
お前のプラグのせいで!
「トキさん、本当に弱々ですね。こんなに早く異変に気付かれてストップ掛かるとは思いませんでしたよ。そんな敏感な身体でよく今まで襲われずに来られましたね」
「…………」
反論してやりたいところだったが、過去の誘拐犯のことやら、先日の痴漢リーマン達のことやらが想起されて、何とも言えない気分になった。
思えば、それ以外にもこれまでに、危ないことはいっぱいあったかもしれない。でも今まで、大事になる前にいつもタカがオレのことを護ってくれていたんだ。――改めて、そう思い知った。
「さてと、それじゃあ行きましょうか」
「どこ行くんだよ? そっちオレん家じゃないぞ」
先に歩き始めた四ノ宮の背に告げると、奴はパッと振り返り、また鼻で笑った。
「まさか、本当に僕がこのまま貴方を家まで送り届けるとでも思っていたんですか? トキさんって本当、脳内お花畑ですね」
くっそ……こんなイヤミ言う所まで九重属性かよ!
「じゃ、じゃあ何処に連れてく気だよ!」
「そうですねぇ……ホテル、じゃ芸がないですし、僕ん家でも来ますか? 色々な玩具を取り揃えていますよ」
「げ」
その玩具って、絶対健全じゃないやつだろ! 流石にオレでも分かるぞ!
「……四ノ宮って、いつもこんなことしてんのか?」
「こんなこと、とは?」
「だから、その……玩具、とか使って、こういう……」
俯き加減に口の中でごにょごにょ言っていると、いきなりプラグのスイッチをオンにされた。内壁を振動が容赦なく襲い、喉から情けない声が漏れる。
「うぁ、あっ!」
「こういうこと、ですか?」
「やめ、ッ止めろ!」
「『止めてください』……でしょ?」
カチッ、振動が一層強くなる。人気のない裏道とはいえ、こんな所で嘘だろ!?
オレは必死に「止めてください」と懇願した。でも呂律が回らず「ろめてくらさい」みたいになって、四ノ宮に「何て言ったか分かりませんね」なんて言われてしまい、何回も言い直しさせられた。
「止めてッ、くだ、さぃい……っ!」
最後には、もう殆ど泣き叫んでた。
「まぁ、いいでしょう」
カチッとまた音がして、ようやく振動が止んだ頃には、オレは腰をガクガク震わせながらその場にへたり込んでしまっていた。
これまで店内で与えられた振動よりも一番強いそれだった。店内ではまだ手加減されていたのだと、気付くと同時に戦慄した。
「あーあー、そんな地べたに座り込んで。立ってください。誰かが通りがかったら変に思われますよ?」
「ぅ……」
立ち上がろうとしても、力が入らずに産まれたての子鹿みたいになる。そんなオレに四ノ宮はこれ見よがしに溜息を吐いて、オレの腕を掴んで半ば引きずるようにして、更に狭い壁と壁の隙間の裏路地に連れ込んだ。
オレを壁に寄り掛からせると、四ノ宮は向かい合って立ち、正面からオレの顔を掴んで覗き込んだ。お人形さんみたいに愛らしい四ノ宮の顔が至近距離まで近付いて、べろりとオレの目を舐める。反射的に閉ざした瞼の上から、大胆に泪を啜り取った。
「もう泣いちゃったんですか? まだ家にも着いてないんですよ? もっと頑張ってくださいよ」
「……泣いて、ない。これは、生理現象……だ」
「ああ、泣くほど気持ち良かったんですか? 本当トキさん淫乱ですね」
「ち、違っ!」
ずるっ、と唐突にズボンと下着をずり下ろされた。晒された下半身が、外気を感じてぞくりと震える。
「じゃあ、何で勃ってるんですか?」
「は? ……え?」
言われて見下ろした自身は、四ノ宮の言の通りいつの間にかしっかりと屹立していた。――後ろの刺激だけで。
「このまま歩いて行くのは困難でしょう。一度、ここで抜いておきますか」
「こ、ここって……嘘だろ!? 外だぞ!?」
「そうですね。野外です。こんな場所で下半身露出して興奮して操を勃てている貴方の変態具合には脱帽ですよ」
「違っ……だって、四ノ宮、が」
オレの言い分なんかは無視で、四ノ宮は鞄の中から例の化粧品ボトルみたいなローションと、何やら白い布切れみたいなものを取りだした。薄くて長い……包帯、いや、ガーゼ?
「これ、一度やってみたかったんですよね」
お気楽な口調でそんなことを零しながら、彼はローションをどぽどぽとガーゼの上に掛けていく。使い切るような勢いでひたひたになるまで濡らし、疑問符を浮かべて見つめるオレの眼前に見せびらかすと、それをスッと、オレの雄の先端に被せて――左右に引いた。
途端、得も言われぬ強烈な快楽が駆け抜けた。
「んや、ぁああっ!?」
「ちょっとトキさん、あまり大きな声出さないでくださいよ。人が来ちゃいますよ?」
「ァんっ、やぁ……! メっ、それ止めッ」
オレだって、声なんて出したくない。なのに、堪えられない。何だ、これ。
ぬるぬる、ひんやり。こそばゆいような、もどかしいような、それでいて強制的に持っていかれるような、酷く辛い刺激。体中から力が抜けて、全部がふにゃふにゃになる。立っていられない。だけど、壁と四ノ宮に挟まれて座ることも許されない。
苦し紛れに、自身の服を噛んだ。何とか声を押し殺そうとして、ふーっふーっと荒い息を吐く。それでも漏れる甘い喘鳴。ダメだ、ダメだこれ。じわりと視界が涙に滲んだ。たすけて。たすけてくれ。
十往復もしない内に、オレは背を丸めてびくびくと果てた。ローションにオレの白濁が混じる。ガーゼが吸いきれなかった分が、ぽたぽたと路地裏のコンクリートを濡らした。
「早っ」
耳元で四ノ宮の嗤い声がした。早くていい。ちゃんと出しただろ。もう終わってくれ。そう訴えたいのに、まともに喋れそうにない。ぐったりと壁に背を預けて肩で息をし、腰を痙攣させるオレに、四ノ宮は恐ろしい言葉を放った。
「早過ぎてつまらないので、続行しましょうか」
――え?
驚く暇もなく、ガーゼが再び動き出した。
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