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  今考えてみれば不自然だったとサジは思った。  この数ヶ月の間、ノラとサジの二人組の前には強い敵は現れなかった。  ノラの発作が起こる兆候があるときには、まるで用意されたかのように自分達に見合う強さと淫の気をもつ獣魔があわられた。  ノラのその『用事』が済むと、あとはまた簡単に倒せる獣魔ばかりが現れだした。  そしてそろそろ一度引き返そうと思う頃に、その近くの集落で獣魔が暴れるような、小さな事件が起こるのだ。  二人で解決できる程度に簡単で、見ないフリをして引き返すには少し心が痛む程度に深刻な内容ばかりなのである。  そうやってついつい頑張って、気がつけば普段の行動範囲より随分遠くに来てしまっていた。  ところがサジの発作の周期が近くなると、二人の前に獣魔は一匹も現れなくなった。  一般の人間でも勝てそうな獣魔すら、二人の前から姿を消した。  致し方なく中立として暮らしている亜人を近場の村で探そうとしたが、その時に限って何かしらの用事で村にいなかったりした。  そうして、サジの体がいよいよ限界に近付いて身動きが取れなくなったときに、サジがもっとも恐れている獣魔が現れたのだ。  その時になって、ようやく二人は自分達がこの獣魔の策略ににはまっていたのだと悟った。  サジは部屋の窓からどんよりと暗い外を眺めた。  蟲人たちの住むこの異郷は人間達の街からはるか遠く離れた場所にある。  あの発作が起こった日、ヒオウは二人の前に現れてノラをこともなく叩きのめし、動けないサジを攫った。  ヒオウの住処に連れ去られてからいったい何日が経ったのか、サジにはもう解らなくなっていた。  連れてこられてそのまま幾度も犯され、意識が戻った時は昼であったり夜であったり、薄暗くて午前か午後かもわからない空のときもあった。  自分が何度犯されたのかも、もう覚えていない。  七、八度目くらいまでは全力で抵抗していた気がした。  今は疲れて、もう酷く暴れることはやめていた。  艶のあるひんやりとした石の壁にもたれて、頑丈な格子のはまった窓から少し顔を覗かせてみると、階下に蟲人の二人組が大きな荷物を運んできた。  賑やかな女性の二人組だった。  サジがここで見るのは三度目で、そのときも同じ荷物を持ってきた。  荷物はきっと、また大きな繭だ。  サジは元々着ていた衣をすべて剥がされ、武器の剣も奪われて、別の物を着せられていた。  ヒオウが使う使い魔の小蜘蛛がその繭糸を腹に取り込んで編み上げた、至極繊細なレースのような衣だった。  とてつもなく着心地がいい他は、無駄に華やかで何より部分的に露出が多くて、サジはあまり好きではなかった。  ヒオウを拒否してサジが暴れるたびにその衣服が破れてしまうので、そのたびに蜘蛛がサジの体を這い回り補修してゆく。  繕われる度にデザインが少しずつ変わって行くので、サジが最近暴れなくなると今度はヒオウがわざとその衣を破いた。  ぼんやりと外を見る今も、小指の先くらい小さな蜘蛛たちが忙しそうにサジの下腹部からつま先までを走り回っている。  ――まるっきり玩具だ。性処理と着せ替え遊びの人形じゃないか。  どうやってここから抜け出そうか。  奪われた剣はどこに置いてあるのか解らない。剣なしでどこまで逃げられるというのだろう。  フウレイの護符も無い。あったとしてもヒオウ相手では効かないが……。 「さて随分と悩んでいると見える」 楽しげな声がして我に返り、サジは部屋の入り口へ顔を向けた。  戸口にいたヒオウは殺人的な視線を送ってくるサジにかまわず、彼から奪った片目を光らせた。  その瞳を通して、サジの思うことを少し読み取っていたらしい。  数秒待ったもののサジが何も言い返さないとわかって、ヒオウはサジの前に座った。 「喘ぐ意外になにか言葉を出したらどうだ。声は返してやっただろう」 そう言ってもサジが黙ったままなのを見て、蟲人は目を細めた。 「その全く可愛くないところが俺にとっては可愛くて仕方ないのだがね」 鋭い歯を見せて笑んだヒオウは、サジの顎を取り強引に口を吸った。  嫌悪感でのけぞり、サジは反射的に腕を動かした。と、その指先が硬い物にぶつかった。  カシャリと鳴った金属音は聞き覚えのあるもので、諦めが浮かんでいたサジの片目がパッと見開かれた。  サジの剣の柄だ。  口を離したヒオウがにったりと笑い、剣を持ち主の胸元に押し付けた。 「心細いなら持っているといい。これ一つで何ができることでも無いのだ」 ヒオウの言葉が終わる前に、サジは剣を抜き飛び離れた。 「何ができることも無いだと」 サジの中から、何日も死んだようになっていた怒りがふつふつと沸きあがって来た。  俺に剣を戻したことをすぐに後悔させてやる、と思った。  ヒオウを今すぐ斬り殺したい衝動に駆られながらも、かろうじて冷静な別の自分が「逃げ道を探せ」と警告していた。  力では到底かなわないのだ。 「剣一つで生き生きとしてきたな。与えがいがあったというものだ」 ヒオウが笑って立ち上がり、逃げようとするサジを目で追った。 「行くのか?ようやく二人の体が丁度良く合ってきたのに。お前だってもう心地よくなり始めていただろう」 サジが気を散らすようヒオウが言葉で煽るが、サジは無反応だった。  ヒオウの一瞬の隙を突いて彼の脇を走りぬけ、部屋を飛び出した。  ヒオウの根城の内部は把握していないが、とにかく階段を駆け下り、外の光が入り込んでいる明るい方向を探した。  そうして走り回っていると、見えないはずの片目の内にうっすらと通路が見えてきた。  ああ、とサジは見当をつけた。  ヒオウはサジの目を通してサジの思考を読み取った。これは逆で、今度は自分がヒオウの思考を読んでいるのだ。  瞼の裏に広がる地図から出口までの廊下をみつけ、次々と走りぬける。  三つほど階段を降りた、その先に根城の出入り口である扉がみえた。  死んでいた感情が一気にあふれ出し、サジは叫びながら全力で走った。  その扉に触れる直前だった。  目の裏にあった地図という『映像』の情報が唐突に大きな悲鳴という『音』に変わり、頭の中にぎんぎんと反響した。  突然の異変にサジは激しく眩暈を起こし、天地を見失い地面に倒れ込んだ。  そして次に目の裏に浮かんだ映像を見て悲鳴を上げた。  そこには切り裂かれたノラが映ったのである。  口から血の泡を吐いているノラの腹を裂き、その腸を引きずり出したのもヒオウだった。 「ノラ!?あ……あ!ノラ!ノラ!」 恐ろしい光景を映し出す目を両手で抑え、サジは転がりながら叫んだ。 「そら、やはり何もできはしないのだ」 冷たいヒオウの声が振ってくる。  サジが目をあけると、自分を見下ろしている蟲人の姿があった。  彼の周りにはノラの姿も血だまりも無い。  塵一つ落ちていない石の廊下にヒオウ一人が立っていた。 「き……さま……」 「せっかく出口を教えてやったのに、くだらない情報でフイにしたな。お前はそういう馬鹿だから心底可愛いよ」 そう言われてノラの光景が作り物であったと理解するまで、サジはしばらくの時間を要した。  からかわれていたと気付いたとたん、破裂しそうなほどの悔しさと怒りが綯交ぜになって、頭の中がしびれた。  ヒオウにのし掛かられて、腹の底から叫んで暴れた。  ――久々に威勢がいい。手間をかけた甲斐があったな。  そう囁かれて出口までのあの映像もヒオウの誘導だと悟り、どうにもならない感情でいっぱいになって涙があふれた。  暴れる体は簡単に押さえつけられて、衣の腰部分を引き裂かれる。  そのまま両足を強引に開かされ、前戯も無しに乱暴に突き挿れられた。  激痛に喉がつまる。  ヒオウはノラの口に指をねじ込みながら、そのまま何度も突き続けた。  ヒオウのものが入ったそこは、今にも裂けそうなくらいに痛々しく、きつきつとしていた。  けれど間もなく濡れはじめ、それから数度か突き上げられる度に、粘度のある水音を出し始めた。  突かれて滲み出るサジの腸液は幾分か潤滑油の役目をし、当初破れそうだったそこは、深くまでヒオウの性器を包んで受け入れ始めた。  彼の口からでる声が苦痛から微かな喘ぎに変わるのにも、そう時間はかからなかった。 「っ、うっ、く……んぅ……」 痛みから変わり始めた感覚に、泣きながら体をよじる。  こうなると、もうサジはこれから来る悦楽に抗うことはできなかった。  ここで抱かれ続けるうちに、体のほうはヒオウを憶え始めていた。  興奮も手伝ってかサジは幾度か突き上げられた後に大きく体を震わせた。 「暴れたからか、今日はまた随分早く濡れたものだ」 くつくつと笑いながらヒオウがサジの口を吸い、舌を弄ぶ。  先ほどまでの激しい感情と痛みと、そのあとの快感に無数の汗粒を浮かべながら、サジは薄目を閉じた。  腰が深く繋がったままヒオウはサジの髪を撫で、頬に触れ、衣の中に指を滑り込ませていった。  サジはもうヒオウの指を拒むことなく、無意識に、全く無意識に、甘く吐息をこぼし始めた。  一度目の強姦を経ての二度目の丁寧な愛撫に、サジは自分の体がまるで芯からじっくりと溶け始めたような気がした。  ヒオウが再び腰を、今度はサジの体が悦ぶ波にあわせて動かし始めた頃には、サジの中にはもう自分を抱く宿敵であるはずのこの蟲人のことしかなくなっていた。  自分の中に放たれたヒオウの子種が二人の深く繋がったところから溢れ、こぼれて外に垂れ始めても、そうなっても二人はまだ満足せずに体を離さなかった。  人であるとか蟲であるとか味方であるとか敵であるとか、そういったことを全て忘れて、お互いの体の中から競り上がって来る熱に夢中になっていた。  追記。  繭を館の中に運び入れている最中に突然目の前でおっぱじまったヒオウとサジの修羅場~激しいえっちに、トーラとトットの腐女子脳がぎんぎんに覚醒したとかしなかったとか。

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