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いいか奏音、逃げるが勝ちだ
軽快な音楽が流れるなか、機関車のポッポーという音や、時折ジェットコースターがうなりをあげて観覧車の中を走り抜ける。客の歓声が響くのはその瞬間だけで、平日の遊園地はのんびりとした空気が流れていた。客の姿もまばらだった。
奏音は龍成と並んでベンチに座り、ソフトクリームを仲良く食べていた。龍成は珍しくラフな格好だ。
家族連れがふたりの目の前を通りすぎていく。
こちらに目を留めた父親がぎょっとしたように立ち止まった。パパ。母親が父親の腕を掴み、引きずるようにして立ち去っていった。
目を合わせるのも怖いといった様子だった。
まぁ、無理もない。
距離を置いて、玲士やコウジをはじめとする舎弟数人がふたりを取り囲んでいる。周辺に異常がないか、いついかなる時も目を光らせていた。
黒服の男たちが何人も連れ立っているのは異常な光景だった。家族連れやカップルがほとんどの遊園地で目立たないわけがない。特殊な職業であることは誰の目にも明らかだった。先ほどから何人も顔をひきつらせ逃げるように去っていった。
遼禅に会いに行ったはずの三人のうちふたりが何故ここにいるのか。遼成が何故いないのか、それは1時間前に遡る。
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