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いいか奏音、逃げるが勝ちだ
「器の小さい女だ。先代の舎弟共がみんな青くなっていた。まどかに子どもが生まれれば別だが、子どもとはいえ跡目に向かってあの態度だ。光希の心の広さを少しは見習って欲しいものだな」
「怒るだけ無駄。火に油を注ぐようだもの。遼も龍も奏音もみんな無事で良かった」
「もし俺が怪我をしたら看病をしてくれたか?」
じっと見つめられ、光希は頬を染めながら小さく頷いた。
「奏音の面倒は龍に頼めばいいし、遼に何かあったら俺、どうしていいか分からない」
「随分と嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
力強い手が後頭部に回り、柔らかい光希の髪をむしる。
「りょ、う……っ」
名前を呼ぼうとした唇に、遼成の唇が押し付けられた。
「テツ、あとどのぐらいで到着する?」
ハンドルを握る運転手兼弾よけの男に声を掛ける遼成。
「十分も掛かりません」
「そうか。光希お前だけ行ってこい。寝て待っているから」
「寝る?え?ちょっと遼」
「どうせ俺は蚊帳の外だ。奏音だって、俺がいない方がいちいち気を遣わなくても済むだろうよ」
「なんでそうすぐ拗ねるかな?」
「だってそうだろう。朝起きて俺の顔を見るなり泣き出したんだぞ。どうしていいか分からないから光希を呼びに台所に言ったら、龍といちゃついてるし」
「奏音は、泣きながら眠った次の日の朝は必ずといっておねしょをする。遼と龍に言ったよね?だから、龍が奏音を探している間、防水シーツを重ねて敷いたんだよ。おねしょしたことで奏音は怒られると思ったんだ。ぶたれると思ったんだ。父親がそうだったから。それを思い出して怖かったんだと思う」
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