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奏音には敵いません
観覧車から降りてきた客はみんな楽しそうだ。誰も龍成のように蒼白になっている者はいない。
「少し休ませてくれ」呻いて近くにあったベンチに沈み込んだ。
「ねぇ、りょうおじちゃん、りゅうパパ、大丈夫?死なない?」
「あぁ。大丈夫だ。龍は高いところが苦手なだけだ」
「りゅうパパにもにがてなことがあったんだね」
「そりゃあ一つか二つ苦手なものはある。例えば……」
遼成が頭を巡らせた。
「一太くんパパはままたんが苦手だろう?」
「うん」
「鞠家はさっちゃんの涙だろう?」
「うん、うん」
目をキラキラと輝かせる奏音。
「ぱぱたんは、しょうどくえき」
奏音が得意気に右手を挙げた。
「お、ちゃんと分かってるな」
「りょうおじちゃんは?なにがにがてなの?」
「おじちゃんも鞠家と一緒で、ママの涙だ。ママに泣かれるのが一番、苦手だ。無邪気に隣で笑ってくれる。それだけで幸せな気持ちになれるんだ。だから、いつだって好きな人には笑顔でいてもらいたい」
「かなたもね、みつきママにはえがおでいてほしい。りゅうパパにも、あと……」
そこで言葉を止めると、
「りょうパパにも!」
満面の笑みを浮かべにっこりと微笑んだ。
「奏音……」
遼成は聞き間違いじゃないかと一瞬、耳を疑った。
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