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しずくとさくら
龍成は腰にタオルを巻いただけの格好で布団の上に仰向けに寝ていた。顔には濡れたタオルが掛けられてあった。
「みつきママ、りゅうパパ死なない?」
「うん大丈夫だよ。赤ちゃんをお風呂に入れるの初めてだから、緊張しすぎて逆上せたみたいだから。うちわで扇いであげて」
「うん、任せて」
遼成は慣れた手付きでふたりの赤ん坊に服を着せてやり、湯冷ましをスプーンで少しずつ飲ませていた。
ここにいる間だけでもちゃんとした名前で呼んでやらないと可哀想だ。あれ、それと中国語で呼ばれていた赤ん坊たちに、遼成は、しずくとさくらと仮の名前をつけた。しずくはぱっちり二重の美人さん、さくらは頬っぺがさくら色のなかなかの器量持ちだ。ふたりともお座りは出来るから生後半年は過ぎている。
「光希、俺もうダメかも」
「何、弱気になってるの」
龍成は甘えるように光希の体に抱きつくと、スリスリと頰を寄せた。
「動けるようになったらこれに着替えて。風邪をひいたら大変だから」
「了解。奏音、悪いがパパに水を持ってきてくれないか?」
「うん、分かった」
すっと立ち上がるとうちわを握ったまま台所へ走っていった。
「元気過ぎて困ったもんだ」
龍成が首だけ下を向いてやれやれとため息をついた。
「触れてなくても光希がそばにいるだけでこれだもんな」
光希が下に目を向けるとタオルがもっこりと盛り上がっていた。
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