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鞘師優
自分たちが11年前、隣国で子どもたちになにをしたか忘れたのか。
ヘイノンチルドレンと呼ばれるこどもたちがなぜ生まれたのか。
事実を隠蔽し、暴力団をさらに締め付けるなどもってのほか。
ずっとひた隠しにされてきた真実を白日のもとに晒したのは、真実を全て知るある男が告白本を自費出版したことに端を発する。
当時関わった男たちは、知られてまずいことでもあるのか、なんとしてでも出版を阻止しようとあの手この手を使ったが、その男は上からの圧力に全く屈しなかった。
朝のワイドショーは連日その話題で持ちきりになっていた。
光希の手元にも著者から献本が届けられていた。表紙を飾るのは斉木陽彩 が生まれた時の写真だった。
「陽彩くんも蓮くんと同じく懸命に生きてる。生きるってすごいよね」
生まれながらにして両足がなかった陽彩。心臓に大きな病を抱え、蓮と同じで2歳まで生きられないと宣告されたが、斉木夫夫の愛情をたっぷり受けてすくすくと成長している。
「でも、あの風来坊がまさか医者だっとはな。今でも信じられない」
「未知とずっと離れ離れなっててようやく一緒に暮らすようになったんだよ。良かった」
「遥琉兄貴と毎日未知を取り合ってるって聞いたぞ」
「うちと一緒だね」
光希がクスクスと笑いだした。
著者名は鞘師優 。ペンネームではなく本名だ。かつて地竜と呼ばれていた男だ。
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