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新たな事件のはじまり
男の……、悠仁の足がぴたりと止まった。
「忘れ物だ」
根岸が首根っこを掴まえ引き摺っていた男を悠仁の目の前に放り投げた。かろうじて息はあるもののぐったりとしていた。
「縣一家には荒くれものが多い。このくらいで済んで良かったな」
「黙れ!」
噛みつくように怒鳴り散らした。
「悠仁、約束が違う」
「そんな約束をした覚えはない。アンタそこ何様なんだ。赤の他人の癖に。人の名前を気安く呼び捨てにするな」
激しい口調で叩き付けるように返した。
「会長に向かってなんだその口の聞き方は」
黒服の男たちが一斉に悠仁を取り囲んだ。
「会長だと?この男がか?ふざけるな!冗談も休み休み言え」
「冗談な訳ないだろう。根岸は縣一家のため身を粉にして尽くしてくれている。それに後進の指導にも熱心に取り組んでくれている。縣一家にはなくてはならない存在だ。ろくに働かず、人を騙して楽して稼ごうと考えているどっかの誰かさんとは天と地の差だ。そうだろう?」
強面で屈強な男たちを引き連れ遼成が颯爽と姿を現した。
「矢吹、娘を助けてくれてありがとうな」
「優真さんと、優真さんの未来の姐さんをお守りするのが俺の役目です。失礼します」
腰を九の字に曲げ頭を下げると、何事もなかったように主のあとを追い掛けた。
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