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百円貯金

「百円貯金?」 「父さんたちと母さんにまだ行っていない新婚旅行をプレゼントするのに、子どもたち九人で毎月お小遣いから百円ずつ出しあって貯金することに決めたんだ。橘さんや信孝さんや鳥飼さん、それに蜂谷さんや柚さんや舎弟のみんなが協力してくれて、一年も掛からないうちに目標金額のお金が貯まったんだ」 「そうだったんだ」 「県内だと母さんが子どもたちのことが心配で楽しめないと思って、隣県の秘湯の温泉宿を一泊予約したんだ」 一太がスマホを片手で操作し光希に見せた。遠刈田温泉のさらに奥。深い山のなかにぽつんとある一軒宿が写し出されていた。宿泊代はひとり一泊三万円。 「お土産なにがいいって母さんが陽葵と心望に聞いたんだ。そしたら声を合わせて、妹が欲しいって、父さんたちに聞こえるようにわざと大きな声で答えたんだ」 「そうだったんだ。一太のお父さんも、優も有言実行の男だからね」 「ハネムーンベビーっていうんでしょう?」 「うん、まぁね。一太はその、嫌じゃないの?十七歳も年の離れた弟か妹が生まれるんだよ」 「父さんたちと母さんの仲がいいのは昔からだもの。毎日頑張っている母さんに神様がご褒美を授けてくれたんだと思う。それに陽葵もずっと妹が欲しいって言っていたし、あと、ふたり増えても僕は別に構わない。遥香も太惺も同じことを言っていた」 「一太、見ないうちに大人になったね」 光希は感極まりそっと涙ぐんだ。

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