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産みの母と育てのパパたち
「じゃあねしずくちゃん、さくらちゃん」
奈梛は元気に手を振り、迎えに来てくれたフーと一緒に卯月の家を出た。
ごみ集積所の前で近所の若い主婦たちが井戸端会議をしていた。よその家の塀に落書きをしたり、我が物顔で道路で遊ぶ子どもを注意すらしなかった。素通りしたあと、奈梛はふと何かに気付き、慌てて振り返った。顔を二度、三度と確認した。顔を変えても目元と輪郭はあやみと花に酷似していた。
「九鬼まゆこさんですよね?」
物怖じすることなく堂々と声を掛けた。
「なに言ってんのこの子。頭おかしいんじゃない」
「だって、ほら」
他の主婦たちが卯月家の家のほうをちらっと見た。
「あそこの子どもはみんなバカだから」
「そうよね」
「母親も気色悪いし」
「ゾッとするわ」
ここぞとばかりに未知の悪口を言いはじめた主婦たちに、奈梛は呆れてものが言えなかった。
「よってたかって人の悪口を言って、楽しいですか?未知さんのなにを知っているんですか?なにも知らない癖に」
「生意気な子どもね。どんな教育を受けているのかしら。親の顔が見てみたいわ」
「私が誰か分からないんですか?」
「さぁーね。知らないわ。皆さん行きましょう」
バカにするように笑いながら引き揚げていく主婦たちを奈梛は睨み付けた。
私も見てみたいよ。お姉ちゃんふたりも殺しておいて罪を免れのうのうと生きるまゆこという産みの母親の顔を。
目付きの鋭さは九鬼の血筋たる由縁だ。
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