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みんな、ママが大好き

「ねぇパパ、お兄ちゃん、何してるの?」 しずくが声を掛けるとふたりはどきっとして振り返った。 「別になにもしていないぞ。な、奏音」 「あぁ」 スマホをさっと手で隠した。 「パパもお兄さんも、ほんとママのこと大好きだよね」 「当たり前だ。ママがいない人生なんて考えられない。真っ正面から見るママはもちろん可愛いが、上から見るママの笑顔はまた格別の可愛さがある。奏音、ママに見付かる前に撮りまくるぞ」 ふたりして開き直ると、また写真を撮りはじめた。 「駄目だこりゃあ」 しずくは額に手を置き、やれやれとため息をつくしかなった。 遥香も、 「龍おじさんもパパとお兄ちゃんと同じことを言ってる。みんな、ママが大好きだよね」 笑うしかなかった。 「遥香お姉ちゃん、コーヒーの匂いがするんだけど」 さくらが鼻をくんくんさせた。 「すぐ目の前にコーヒーショップがあるからだよ」 「そうなんだ」 「ミルクティーなら飲めるんじゃない?」 さくらが首を横に振った。 「ちょっと苦くて、大人の味がした」 「大人の味?」 「うん」 さくらが白杖を握り締め、ゆっくりと歩きはじめた。 「遼パパにお土産買っていかないと。一人でお留守番しているから」 「じゃあ、私も行く」 「待ってさくら。段差があるから気を付けて」 しずくと遥香がさくらのあとを追い掛けた。

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