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コウジと達治
コウジと達治は談笑しながら棚に並ぶ香辛料を眺めていた。ふたりの後ろを素通りした買い物客がぎょっとして立ち止まり、なるべく目を合わせないようにそそくさと足早に立ち去っていた。
はたから見たら恋人同士にしか見えない仲睦まじいふたりを離れたところで腕を前で組み睨み付けている人がいた。
達治の兄、譲治だ。
「譲治さんは弟ラブだからね。達治さんをお嫁さんに出したくないみたいよ。昨日の夜、度会さんの家でちゃぶ台をひっくり返したんだって。十年だよ、寝食を共にして。苦楽を共にしたら、そりゃあ、好きになっちゃうよね。いいなー、ラブラブで」
遥香はふたりに聞こえるようにわざと大きな声を出した。どきっとしてふたりが振り返った。
「しずくとさくらを待たせてどうするの?ずーと待っているんだよ」
遥香に言われてようやくその事に気付くふたり。
「大変申し訳ありませんでした」
おろおろしながら平謝りに謝った。
「はい、どーぞ」
しずくから紙袋を渡され、
「俺たちまで気を遣っていただきありがとうございます」
「ありがたくちょうだいします」
腰を九の字に曲げ頭を下げた。顔を上げたとき、ふたりはようやく譲治の存在に気付いた。
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