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コウジと達治

「コウジ、てめえー」 鬼気迫る勢いで譲治が猛然とコウジに向かって突進してきた。 「譲治さん、ストップ!喧嘩は駄目だめ!」 遥香が止めに入った。 「コーヒーがしずくとさくらに掛かったら一大事だよ。人様に迷惑を掛けるなって父さんから言われているでしょう」 「遥香の言う通りだぞ。喧嘩は他所でやれ」 龍成のドスのきいた低い声にまわりにいた買い物客がびびりまくっていた。 「譲治、お前の目は節穴か?この十年、何を見てきたんだ?」 不思議そうに首を傾げた譲治にため息をつきながら龍成は言葉を続けた。 「菱沼組のオヤジと姐さん、カシラ夫婦、信孝夫婦、柚原夫婦、ハチ夫婦に亜優と斉木。みんな仲がいいだろう。夫婦喧嘩をしているところを見たことはないはずだ。那和は新婚だから喧嘩はしっちゅうも知れないがな。譲治、弟ラブなのはわからない訳ではないが、達治の幸せを温かく見守ってやったらどうだ?」 譲治は達治の手元を見つめた。コウジと恋人繋ぎをしているその指には、昨日までなかったお揃いの指輪がキラキラと輝いていた。

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