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譲治と覃
「あ、あの……」
譲治は勇気を振り絞り龍と男に声を掛けた。
「達治を連れ戻しに来たのか?」
「いえ、違います」
直立不動になり答えた。
「それならなんで追い掛けてきたんだ?」
「俺が用事があるのは」
そこで譲治は一旦言葉を止めると、龍成の隣で不敵な笑みを浮かべる男をちらっと見た。
男の職業は世間が注目する要人が逃亡したケースだけを扱うバウンティハンターだ。
かつて地竜の右腕として名を挙げ、未知のファンクラブのメンバーでもある。会員ナンバー10の男だ。
「沐辰《ムーチェン》、俺が欲しいならくれてやる。煮るなり焼くなり好きにしろ」
地竜のまわりにいる男は揃いも揃って性的嗜好が変わっている。芫やダオレン、フーを見れば分かるが、ある意味ド変態な連中の集まりでもある。
「ジョー、この俺をこれだけ夢中にさせておいて、十年も待たせたんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」
凛とした重みのある声があたりに響いた。
「男に二言はない」
即答した譲治に、男は愉しげにくすっと微苦笑を浮かべた。
「沐辰、ここは公共の場所だよ。子どもたちの前だよ」
光希が莉子を慌てて抱き上げた。しずくとさくらに後ろを振り返るように指示した。
「ママなんで?」
人目を憚らず真っ昼間から濃厚なキスを交わしているとは口が裂けても答えられなかった。
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