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譲治と覃
「俺のジョーは可愛いな」
口の端で笑った沐辰は、滴るような雄の色香を纏っていた。こんな場所でと思うのに、視線が釘付けになる。
大きな掌に頬を取られ、強引に唇を奪われた。
官能的な厚みをもった唇に挟み込まれ、きつく吸い上げられる。
親指が頬に食い込み、痛みに喘いだ隙に唇を割られ、沐辰の舌先がすかさず侵入してきた。
「ん…ぅ、…っ」
熱く濡れた舌が我が物顔で譲治の口のなかを蹂躙する。ぬるぬると這いまわる感触に、身体中が泡立った。舌を絡め捕られるとぞくぞくして力が抜けていった。
こんなにも深く濃厚なキスは初めてだった。
一方的に貪られ、呼吸さえ自由に出来ない。
次第に頭の芯が痺れてきてぼぉーとしてきた。
「まずいな乗り遅れる。続きは乗ってからだ」
柱の陰に隠れていたふたり。
沐辰は譲治をひょいと肩に担ぐと、すたすたと乗車口に向かい歩き出した。
「沐辰ちょっと待て」
ふと我に返った譲治はおおいに慌てた。
「暴れるな。次の新白河駅でおりるから心配するな。そのままホテルへ連れていく。俺の息子を臨戦態勢にしたんだ。ちゃんと責任を取ってもらわないとな」
「は?ふざけんな。俺には遥香お嬢さんの弾よけっていう重要な仕事があるんだ」
「タマとハチがいる」
有無をいわさず沐辰は譲治を新幹線のなかへ連れ込んだ。
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