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おめでとう!
遥琉はずっと昇龍会のトップになることを固辞し続けてきた。子どもたちが小さく、しょっちゅう家を留守に出来ないとの理由で。
本部が地方でも別に構わないんじゃないか?別に東京じゃなくてもいいんじゃないか?
遼成と裕貴がそう言い出し、急遽開催された幹部の会合で、本部を福島に移すことと、遥琉のトップ就任が満場一致で可決された。
「アタシもダーリンもこれで晴れて自由の身よ」
ー千里さん、これからどうするんですか?ー
「カタギに戻って、昔みたくステージで踊ろうかしら?なんて冗談だけどね」
千里はこの十年、蒼生と夫婦二人三脚、昇龍会のトップとして組織をずっと守り続けてきた。
「子どもたちにはずっと寂しい想いをさせてきたでしょう。二人とも男の子だからママって言って甘えてくれるの今だけだし。だから、めいっぱい子どもたちと遊んで、思い出をたくさん作ろうかなって」
ー跡目は決まっているんですか?ー
「若頭の細谷が組長になるわ」
重荷をようやく下ろせる。千里の表情はどこか晴れ晴れとしいて明るかった。
ーあの、千里さんー
「どうしたの?改まって」
ーままたん……じゃなくて橘さんだ。中学生になったんだからままたんって呼ぶの卒業しなきゃ。橘さんって呼ばなきゃ。頭では分かっているんだけど……ー
「遥香は、産まれたときからずっとままたんだもんね。別にいいんじゃない。ままたんでも。奏音が光希のこといまだにママって呼んでいるんだもの」
ーはいー
「で、何?」
千里が話し掛けると遥香の頬がほのかに赤くなった。
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