170 / 173

おめでとう!

遥琉はずっと昇龍会のトップになることを固辞し続けてきた。子どもたちが小さく、しょっちゅう家を留守に出来ないとの理由で。 本部が地方でも別に構わないんじゃないか?別に東京じゃなくてもいいんじゃないか? 遼成と裕貴がそう言い出し、急遽開催された幹部の会合で、本部を福島に移すことと、遥琉のトップ就任が満場一致で可決された。 「アタシもダーリンもこれで晴れて自由の身よ」 ー千里さん、これからどうするんですか?ー 「カタギに戻って、昔みたくステージで踊ろうかしら?なんて冗談だけどね」 千里はこの十年、蒼生と夫婦二人三脚、昇龍会のトップとして組織をずっと守り続けてきた。 「子どもたちにはずっと寂しい想いをさせてきたでしょう。二人とも男の子だからママって言って甘えてくれるの今だけだし。だから、めいっぱい子どもたちと遊んで、思い出をたくさん作ろうかなって」 ー跡目は決まっているんですか?ー 「若頭の細谷が組長になるわ」 重荷をようやく下ろせる。千里の表情はどこか晴れ晴れとしいて明るかった。 ーあの、千里さんー 「どうしたの?改まって」 ーままたん……じゃなくて橘さんだ。中学生になったんだからままたんって呼ぶの卒業しなきゃ。橘さんって呼ばなきゃ。頭では分かっているんだけど……ー 「遥香は、産まれたときからずっとままたんだもんね。別にいいんじゃない。ままたんでも。奏音が光希のこといまだにママって呼んでいるんだもの」 ーはいー 「で、何?」 千里が話し掛けると遥香の頬がほのかに赤くなった。

ともだちにシェアしよう!