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#22 『本当』のきみ
こちらへ向いた柚弥の微笑は、昏く捩れたかたちに、どこか荒んだ濃い澱みを滲ませていた。
「隠すつもりだったけど、仕方ないね。君が見てたのは、ただの上っ面。
別に女が駄目って訳じゃないけど、俺は好きで金貰って、男とも寝るような奴なんだよ」
「…………っ」
「それ以外の事情なんか何もないよ。そのまんまだよ。あ、別に俺から売り込んでる訳じゃないけどね。
本当、何なんだろうな。女が周りにいないから? 一応、こんな顔だから? 手軽に女の代わりが出来ると思われてんのかなあ」
「…………受け容れる必要あるの? それって……」
「えー、だってさあ。泣いて梗介 に土下座する奴とか居るんだよ。そこまでされたら、断るこっちが却って悪いみたいじゃん。
しかも、結構な額までわざわざ出すって言うんだよ。貰えるもんは、貰っといた方がいいでしょ。別に俺は、目瞑ってるだけでも良いって言うしさ。…………一応、それ相応の対応はしてるつもりだけど。……そんな悪い話でもないよ」
「だからって…………!」
「だからって何? いいじゃん、別に。
気持ち悦 いことして金貰って、一体何が悪いって言うんだよ!」
悪夢みたいに歪んだ顔で嗤う彼を、僕は信じられない思いで見つめるしかなかった。
「俺は君が思ってるような、救いなんかない奴なんだよ……」
「…………」
でも。
「でも……」
"本当"の君は、それを望んでいるのか……?
「本当は……」
「『本当の君は、そんな事する子じゃない』」
驚いて振り向いた先で、柚弥は先程の悪意に満ちた昂りもすっかり冷めた顔で、薄く微笑していた。
「裕都君もそれ、言う……?」
「…………」
「さっきも何か言ってたね。よく言われるんだよなあそれも。
『君は本当はそんな子じゃない』『そんなこと、本当はしたくない筈だ』」
「……、」
「本当はって、何だよ。擦れたように見えて、実は純真な心隠し持ってるってやつ? ねーわ、そんなの。
そんな漫画か携帯小説の安い設定みたいなの、要らねえし。
俺はこんなだよ! そもそも。勝手に妄想だか理想を押し付けないでほしいね。純粋なんてもの、あったとしてもとっくの昔に捨ててるわ。つーか始めからそんなものきっとないね!
俺なんて何もない。からっぽだ。違うな、皆んなが吐き出した薄汚いあれの、掃き溜めみたいなんもんだよ!」
「そういうこと……っ!」
「言うよ、だって本当じゃん! 俺なんて、実はとか、そんな大層なもんじゃないよ。それ相応の存在だ。皆んな、手近な珍しいオナホぐらいにしか思ってないだろ。その通りだよ」
「自分のことそういう風に言うなよ……! 昨日の、一人の子はそんな風には見えなかったけど、始めは……っ」
「結構見てたね。同じだよ。違うって言うんなら、じゃあ何で皆んな結局俺の中に突っ込んで出すんだよ。普通に生え揃ってるの付いてる男だわ。落ち着いて見てみろよ。それで女が脱いだら、結局そっちの方が勃つんだろ。
ああほんとくだらない。あ、皆んなは一応、そんなくだらなくはないよ。その場の空気に惑わされてるだけだ。——くだらないのは、俺」
「…………っ」
「期待させたかもしれないけど、俺、そんな高尚なもの持ってないよ。ごめんね」
「…………」
「…………先輩は……」
「…………え?」
「夏条 先輩は、どう思ってるの……」
「……梗介?」
「夏条先輩がいるから、そういうことしてるの…………?」
柚弥は、少し考えたが、やがて「ああ……、」と納得したように息をついた。
「別に梗介に脅されて、無理矢理客取らされてる訳じゃないよ……」
「…………」
そういう単純な関係ではないだろう、ということは推し量られた。
ただ、柚弥と最も密な存在だと思われる梗介が、一体どういう心積りで彼の傍にいるのか、気になったし昨日からそこが理解の範囲外だった。
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