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2 ウノくんはネコである
ウノくんの本名が一之進 であることを、ウノくんという呼び方が俺の中ですっかり定着してから知った。ウノというのはスペイン語で数字の1(UNO)を指し、カードゲームにもある。
ベッドで本名で呼んでみたら盛り上がるのではないかと、さっき抱っこしながら試しに呼んだところ、元気だったウノくんが急にしおれた。
「えっ、な……何か俺は下手なことをしたか?」
「ああ、堪忍なぁ……気にせんで続けて?」
ウノくんは苦笑いして、俺に裸の両腕を伸ばすとぎゅっと抱き締め返してきた。その表情が何かを隠しているような気がして、俺の中にもやもやした感情が生まれる。
「ええんよ、俺はネコちゃんやから。勃たんでも平気。続けて続けて」
「いつも元気だろう。体調不良なら今日はやめようか」
「──いや、ダーさん、あんなあ……俺、本名がどうも苦手やねん」
「何故?」
「ちゅーして、ちゅー」
にこにこ笑顔を浮かべたウノくんは、戸惑う俺の顔を覗き込むようにして、軽く唇を開いた。ウノくんは俺がキスするのを待つだけの受け身だったが、それが可愛らしくて好きだった。
「ウノくん、今日の仕事はどうだった?」
「……ちゅーしながら、仕事の話はやめえ」
「俺が見ていない時のウノくんの様子が知りたい」
「しゃあないなぁ……今日は、ポメラニアンのトリミングが可愛く出来たん。豆柴カットやで」
ウノくんはトリマーだ。二人で飼っているにゃーたんは長毛種ではないのでトリミング技術を必要とはしないが、シャンプーはウノくんの役目だった。
今日の仕事の話をしながらやわらかくキスを重ね、細っこい体も優しく触れていたら、やっとウノくんの元気が戻ってきたので安心した。
「ダーさんのちゅーは、エナジー♡」
こちらこそだ。
ウノくんと出会ってから、俺も名前を呼ばれたことがなかったなと気づいた。しかしこの際、二人の間に本名なんて問題はどうでも良いのではないだろうか。
ウノくんは俺の天使。溺愛して然るべき、俺だけのネコちゃんなのだ。
……ただ、俺が初めてでないのだろうということには、うすうす勘付いていた。
もしかしたら暗い過去があるのでは? そうも思ったが、今話すべきことでもなかった。
「ダーさん、大好きにゃん♡ 気持ちよく俺の中マッサージしてにゃん♡」
ウノくんが猫ちゃん言葉になって、俺に脚を絡めた。くっそ可愛い。お望みどおり。
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