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3 おうちで映画鑑賞(前編)

 ウノくんが何か映画を観たいと言った休日、俺は彼を楽しませるべくレンタルショップに二人で出向いた。  今はアマ〇ラとか便利なものがあるが、たまにはアナログに店で円盤をレンタルするというのも乙なものだ。大人しか入れないエリアの、なんとも言い難い背徳感というのも嫌いではない。ウノくんは初めて来たらしいレンタルショップを興味深そうにきょろきょろと物色している。 「あっ、これなんてどやろ」  にこにこと満面の笑顔で手にしているそれは、三つ首のうさぎがパッケージの『ウサベロス最後の|盲言《ぼうげん》』というファンタジーだかSFだかよくわからないB級映画だった。 「……もふもふだな」 「あ、ダーさん興味ない? やめよか」 「いや、ウノくんが観たいものを選んでくれて良いんだ。今日はいろいろ借りて、二人で楽しもう」  ほっとしたのかそれをかごに入れたウノくんの、空いている方の手をそっとつなぐ。ショップでこうやって選ぶのはデートの一環だ。休日くらいしか、昼間からいちゃつくことなど出来ない。  ウノくんは嬉しそうに、俺の手を握り返した。  可愛い。ウノくんはとても可愛い。美青年というのとは少し違うが、愛嬌があって人懐こい。俺以外の誰かにもこんな可愛らしい表情をさらすのだろうか。俺だけのウノくんでいて欲しい。本当は部屋に閉じ込めてしまいたいくらい愛している。けれどそれを実行すると本気でヤバい奴になるので、思うだけにとどめていた。 「ダーさん? どしたん」 「あ……いや、なんでもない。ウノくん、向こうのコーナーも行ってみる?」 「入ったこと……ないんやけど。行ってみようかあ」  そうしてくぐった大人のエリア。どぎついパッケージがずらりと並び、それの大半は女優さんなのだが、ウノくんの興味はどこにあるだろう。ゲイ向けのコーナーも充実したこのショップをわざわざ選んだが、ウノくんは果たして──  俺はわざと自分の趣味とはかけ離れたタイトルを手にしてウノくんに見せてみる。 「これは?」 「んー……」 「じゃあ、気になったのをなんでも良いから選んでごらん」  ウノくんはうろうろといろんなパッケージを眺めていたが、よくわからなくなってきたのか、目を瞑って一本手に取った。  それは『わんこ攻めと年上美人♂とモブおじさん』という、内容がよくわからないタイトルだった。これは……三人ものなのだろうか? 「……これで、良いのかな?」 「うん、なんかもう数がありすぎて、これ以上見てるとお腹いっぱいやで。もうそれでええわ」  もしかしたら、あまり興味がなかったのかもしれない。計らずもセクハラしてしまったのだろうか。ウノくんをこのエリアに連れてきてしまったことを、俺は深く後悔した。

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