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4 おうちで映画鑑賞(中編)

 結局借りたのは以下の三本。 『ウサベロス最後の妄言(ぼうげん)』 『わんこ攻めと年上美人♂とモブおじさん』 『オネェ研究員トリスの事件簿Ⅱ』  どういうラインナップだかよくわからないが、一緒に観られればそれで良い。三本をカウンターに持っていくとセルフレジになっていたが、レンタルすること自体久しぶりすぎて、仕組みがよくわからなかった。 「ダーさん、貸して」  ピッピッと軽快に音を立てて、ウノくんはまごついている俺を後目にバーコードを読み取ってゆく。痛恨の極み。ウノくんの前では、なんでもそつなくこなせる男でありたかったのに。しかしウノくんは何故だか嬉しそうだった。最終の会計確認画面に来たので、俺はすかさず財布からカードを出す。 「こうゆうの初めてなん?」 「え、……まあ。ウノくんは慣れてるな」 「セルフレジ好きやから。お店やさんごっこみたいで楽しいやん? ……あんな、俺嬉しいねん。ダーさん大抵なんでも出来るスパダリやから、俺が教えられることもほとんどないしぃ」 「それはウノくんが愛しすぎて」 「やん、照れるわ」  周囲の目があるないに関わらず、俺はストレートに愛情を口にする。それがウノくんにはむず痒かったのか、恥ずかしそうに目をそらしてレンタル品を袋に入れている。 「……一之進(いちのしん)?」  ふと、聞き覚えのない男の声がウノくんの本名を呼んだ。誰だ。声の感じからして、五十代後半といったところか? 渋みがかったなかなかダンディな声の主を、俺はすぐに把握した。ウノくんがそちらを気まずそうに見ていたからだ。  ウノくんは一言も発することなく、その男にぺこりと一礼だけすると店を一人で出てゆこうとする。  俺まで置いていかないで欲しい。お辞儀だけされた男はしかしそれで終わりにするわけもなく、ウノくんの背中を追いかけると自動ドアの手前で片方の腕を掴む。 「……離してぇな」 「探したんだ、一之進」 「こんなとこで、やめたって」  ウノくんは腕を振り払う仕草をしたが、男の手は簡単に離れてくれなかった。なんだこの男、もしかして過去の恋人かなんかか? 俺は足早に追いつくと、ウノくんを背中に隠すように二人の間に割り込む。その強引な手は、意外にも簡単にウノくんから離れた。よくよく見れば、だいぶ頭に白いものが混じる男は、俳優になれそうな色男だった。 「なんですかあなたは? 嫌がってる」 「ダーさん、あの……この人はぁ」 「きみは? 何を勘違いしてるか知らんが、一之進は私の……」 「なんでも良いです。嫌がっているのは確かだ。強引な男は嫌がられますよ。さ、ウノくん行こうか」 「う、ん」  ウノくんはぎゅっと俺の背中にしがみついてきた。人前ではあまりやらない甘えた仕草にきゅんとなる。しかし今は一刻も早く、この場を離れなければ。 「一之進! いつでも良い。気持ちが落ち着いたら連絡をしなさい」  正体不明の男は叫ぶように言ったが、もう追いかけては来なかった。  ――誰、だったのだろう。  けれどウノくんは、家に帰るまでの道中、そのことについて口にすることはなかった。

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