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第6話

 花屋の二面あるシャッターの片方は閉まっていたけど店の電気は消えておらず、入っていくと啓太はカウンターの中で作業をしていた。 「亜季くんどうしたの?」 「兄貴の言ってたことって本当?」  駆け寄ってすぐに問い詰めれば啓太は不思議そうな顔をした。 「なんだ、もう聞いたのか。嬉しくて黙っとくなんて無理だったのかな」 「嬉しくてって……啓ちゃん兄貴の話受け入れるの?」 「変なこと言うんだな。当たり前だろ? 他でもない颯季の頼みだからな」 「嘘だ……」  心が鉛を呑んだかのように重苦しい。同時に兄が憎くてたまらなくなった。  兄はいつだって何でも簡単そうにやってのける。俺が何度やっても出来ないことをいとも簡単に。だから、いつしか兄には敵わないのだと諦めているところもあった。  でも、今回だけは嫌だ。啓太のことだけは絶対に嫌だ。  そんな纏まらない想いが膨らみ、気が付けば啓太にぶつかるように抱きついていた。 「だめ! お願いだから兄貴の言うことなんて受け入れないで!」 「亜季くんどうしたの?」 「お願いだから。兄貴のこと受け入れないで! 俺だってずっと好きだったのに、俺は何年も言えなくて悩んでたのに。……なんで兄貴は言えちゃうんだよ……やだ。やだよ……」  抱きついたまま啓太のシャツを力一杯掴んで、身体は小刻みに震えていた。思わず目に涙が浮かんできてしまったので悟られないように隠そうとすると、啓太に顎を掴まれて顔を上げさせられる。 「泣いてるの?」 「泣いて……ない」 「嘘。涙が溜まってる。亜季くん人前で泣くの嫌いなのに、そんなに僕と颯季が付き合うのは泣くほど嫌なの?」  これが俺の我儘だってことは十分にわかっていた。ただ俺は兄が羨ましいだけで、告白もできなかった臆病な自分が悪い。  それに一番は啓太の気持ちであって、啓太が兄を選んだのであればそれが全てなのもわかっているのだ。  本当は言ってはいけない。でも、涙で滲んだ視界には優しげに問いかけてくれる啓太が映っていて、その雰囲気は懇願すれば叶うのではないかと思うくらい穏やかだった。 「言ってもいいの?」  情けない顔をしていると思う。こんな姿を好きな人に見られているなんてこれ以上最悪なことなんかない。 「いいよ。言ってごらん」  でも啓太の声がとても優しかったから、言葉が零れ落ちた。 「……啓ちゃんが、ずっと好きだった。……だから、兄貴と付き合ったりしないで」  拳をぎゅっと握りしめ、震えながら恐るおそる顔をあげると、啓太はにっこり微笑んでいた。

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